今回はアメリカの産休育休事情について調べてみました。
まず日本とアメリカの産休・育休制度を比べた場合、どちらの方がいい条件だと思いますか?私は、アメリカで働く人は有休を使って長い休暇をとったり、家族を優先するイメージがあったのでアメリカだと思っていました。ところが、実際はアメリカの産休育休事情はかなりシビアであることがわかりました。衝撃的なことに、制度の条件や経済的理由から4人に1人は出産後2週間以内に職場復帰しているそうです。
<問題点1:そもそも制度を利用できない人たちが大勢いる>
そもそも職場と当事者がFMLAの条件を満たしていないとこの制度の該当者にはなりません。実際、この条件に当てはまらないために制度を利用して休暇を取れない人は、アメリカの労働人口の40%とのデータもあります。
まず会社がFMLAの適応になるには、その会社で50人以上の従業員が20週以上働いている必要があります。すべての公的機関、公立および私立の小学校と中学校もFMLAの適応になります。
そして当事者が条件を満たすには、その会社で少なくとも12カ月勤務していることと休みをとる前の12か月間で少なくとも1250時間働いている必要があります。ただしこれらの条件を満たしていても、その職場の半径75マイル(約120km)以内で従業員が50人働いていない場合は利用資格がありません(例:50人以上の会社でも小さな支店勤務などによっては該当者にならないということ)。 これらの条件に当てはまらずFMLA休暇を利用できないために、出産後早々の職場復帰をせざるを得ないワーキングマザーも多くいるのが現実のようです。
<問題点2:産休育休あわせて最大12週間>
この制度を利用しFMLA休暇をすべて産休育休にあてても、最大12週間の休暇しかとれません。そのため休みの取り方はひとそれぞれで、休暇を出産予定日の1、2週前からとる人もいれば、ぎりぎりまで働いてできる限りの休みを育休期間にあてる人もいるようです。アメリカで働く私の友達は、出産予定日の1週間前まで働いていました。 一方日本の産休(産前休業+産後休業)は、出産予定日の6週間前から(双子などの場合は14週間前から)取得でき、医師の許可がない限り産後8週間は就業できないのでその期間も産休となります。そして育休は条件を満たしていれば、子供が1歳になるまで(保育園に入れない場合などは生後1年6カ月まで延長可)取得することができます。
<問題点3:休暇中は無給(unpaid leave)>
この制度では、休暇中の職は保証するものの、雇用主は給与を払う必要はありません(=無給)。アメリカの労働者で有給休暇を利用できるのは17%というデータもありました。休暇中は無給になってしまうので、経済的な理由から出産後早々に職場復帰せざるを得ない場合も多く、先に述べたように四人に一人が産後2週間で職場復帰しているそうです。無給の事態を避けるために、有休を産休にあてることも多いようです。
現在8つの州(カリフォルニア州、ロードアイランド州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、コネチカット州、マサチューセッツ州、オレゴン州、、ワシントン州)とワシントンD.C.ではFMLAとは別に個々で有給での家族休暇(paid family leave)に関して規定を制定しています(実施はまだのところも含む)。また、会社で独自の規定を設けているところもあります。 なお、日本でも産休育休中に給料はもらえませんが、出産手当金、出産一時金、育児休業給付金といった手当てや給付金制度があります。
以上の3つの問題点はFMLAに関してですが、制度を利用できなかったり経済的理由から早々に職場復帰をしないといけない場合、様々な問題も生じ得ます。
⇒母体の体力も戻っておらず痛みを抱えながら働く/休暇が取れないので必要なタイミングで乳児の健康診断・ワクチン接種に行けない/母乳をあげられない/チャイルドケア(保育園などに預ける)にお金がかかるetc…。
ちなみに、最後のチャイルドケアの費用は想像以上に高額です。高額なのは早期職場復帰に限った話ではありませんが、子供が小さいほど預けるのにより費用がかかります。費用は子供の年齢・住んでいる州や場所・施設のタイプや質などによるようです。一番費用が高額なワシントンD.Cではチャイルドケアになんと年間平均24,243ドル、次に高いマサチューセッツ州では年間平均20,913ドルかかるとのデータがありました。一番安いミシシッピ州でも、年間平均5,436ドルもかかるようです。
<感想>
アメリカの産休育休事情は非常にシビアであり、FMLA休暇自体が利用できなかったり、休暇中は無給のために早期に職場復帰せざるを得ない方たちが多くいることがわかりました。私もアメリカの病院で出産し産後3日で退院しましたが、生後2週間の時はまだ体が痛みました。そういった体調の中で働かざるを得ないのは本当に過酷だと思います。また生後間もない子供を置いて働く不安も相当なものだと思います。日本でも産休や育休を取りづらかったりマタニティハラスメントだったりと実際には色々な問題がありますが、制度の点だけを比較するとアメリカで働く妊娠中・産後の女性の方が厳しい状況下に置かれていることが分かりました。
<参考ウェブサイト>
https://webapps.dol.gov/elaws/elg/fmla.htm
https://www.theguardian.com/us-news/2020/jan/27/maternity-paid-leave-women-work-childbirth-us
https://www.kff.org/womens-health-policy/fact-sheet/paid-family-leave-and-sick-days-in-the-u-s/
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/31.pdf https://www.epi.org/child-care-costs-in-the-united-states/
・第1回 アメリカでの妊婦検診体験
・第2回 アメリカでの妊娠出産記録
・第3回 日本とアメリカのワクチン接種について
・第4回 ラクテーションコンサルタントにお世話になった体験談
・第5回 アメリカの搾乳機について
・第6回 アメリカの赤ちゃん用ミルクについて
・第7回 新型コロナウイルスについて@ケンタッキー州 Part 1
・第8回 新型コロナウイルスについて@ケンタッキー州 Part 2
・第9回 アメリカの産休育休事情
・第10回 第10回 新型コロナウイルス事情について@ケンタッキー州(7月の状況)
・第11回 病院受診について~整形外科(Orthopedics)編~
・トップページへ